2015年9月5日土曜日
2015年の自主制作
何かのビデオでイアン・マッケイは、レコードスリーブをバラして構造を理解した上で型を取って印刷して切って畳み糊付けするという、音楽と直接関係のない作業にいかに熟達していたかを語っていた。最初のきっかけは資金不足だったとしても、当時のアーティストの自分たちで楽曲を作り、レコーディングし、ジャケットやインナーのデザインを考え、製造に携わり、告知を行い、郵送方法を考え、独自の流通ルートを開拓する試みは、最初期の音楽の自主制作/インディーズ/DIYとして今も大きな影響力をもっている。それはメジャーで作られる音楽へのカウンターとして重要なのではなく、実際に自分達でやると充実感を得られること。そして何よりその充実感が音楽にも浸み出して、面白いものができることに気がついている人がいるからだと思う。
時代は変わり2015年。パソコンやスマホといった機器やインターネットによって、制作の一連の工程はより安価かつ短時間で、自分達の手によって行えるようになった。DAWとマイクの低廉化によりレコーディングに大がかかりなスタジオ設備は必須でなくなり、頑張れば全行程を自分たちで行うこともできる。インターネットによって海外のプレス工場と密にやり取りを行い、ジャケットデザインも国内外の様々なアーティストに依頼するチャンスもある。ウェブサイトやダウンロードサイトの構築も、各種SNS用の素材の作成と切り出しも、Tシャツやフライヤーのデザインも、動画の撮影と編集も、How to本やネットを参考にして人にアドバイスをもらいながら経験を積めば、クオリティの保証はないにしても、誰でもスタートラインに立てる。海外や大手の音楽サイトに流通させたければインディーズのアーティストに仕組みを提供するプラットフォームもある。最低限の資金がなければクラウドファンディングも利用できる。
このような状況をどう捉えるかはそれぞれで、特に今の音楽に不満がある場合は、パソコンやスマホといった機器やインターネットが出てきたことによって音楽はつまらなくなったと考えてしまいそうになる。自主で活動している側としては、IT機器かどうかに関係なくツールを研究して使いこなせた時は充実感があるし、充実感があればあるほど良い活動ができている感覚がある。IT機器やインターネットによってつまらなくなったと感じられる音楽や活動は、その捉え方にも問題があるのではないだろうか?
元々PCやインターネットが作られた背景には個人の力や自主性を重んじて拡張するという、音楽の自主制作と似た考え方がある。『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』でIT機器/インターネットのDIYツールとしてのポジティブな側面に改めて光を当てたクリス・アンダーソン(Wiredの元編集長)は、冒頭で若かりしころのレコードの自主制作の経験に触れている(クリス・アンダーソンは80年代の初頭にワシントンDCでバンドをやっていたらしい:http://www.longtail.com/the_long_tail/2006/07/my_new_wave_hai.html)。80年代の自主制作とIT機器/インターネットによってその気になればなんでも自分でやれるようになってきている今の状況は、連続性がある。
Segweiでは榎本はプログラミング、丸山は各種素材のデザイン・作成とレコードの組み立て、ダニエルは海外とのコミュニケーション、大屋は動画編集等、Gushをリリースするにあたり演奏以外で自分たちでやれる領域を少しづつ広げることができた。もちろん林さん(レコーディング・ミックスエンジニア)や滝瀬さん(マスタリングエンジニア)やCaleさん(デザイナー)をはじめ、沢山の協力があってはじめてリリースが実現したが、彼らにも仕事を依頼したというよりは、自主制作の渦の中に入ってもらったような感覚がある。今後も自分たちでやることの充実感は音楽を続けることのモチベーションの一つであり続けると思う。
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今回新しい試みとして、GUSHとSOULDEEPのハイレゾ音源の販売を行っています。iTunes/mp3等と差別化することを考えて少し高めの1,500円で販売していましたが、ほとんど売れていません・・・。アナログとはまた違った凄みがあり、ぜひ聴いてもらいたいので、価格を約半額にすることにしました。http://segwei.c2ec.com
大屋